研修医講習 ~略語・専門用語編~

医学情報

研修医講習の2回目です。

「アナムネを取ってきてください。」「採血結果はWNL」

病棟での指示が分からない。他の先生のカルテが知らない単語ばかり。そんな経験はないでしょうか?知らない単語は医学用語の略語か、慣習として用いられる用語に分けられます。略語は調べると出てくることが多いのですが、慣習として用いられる用語はネットで検索しても出てこないことが多く、困ることがあると思います。

今回はカルテ記載に頻出の用語や、病棟業務でよく聞く専門用語について解説したいと思います。

カルテ頻出の略語、用語

バイタル

BT:body temperature 体温。
BP:blood pressure 血圧。収縮期血圧はsBP (systolic:収縮期)、拡張期血圧はdBP (diastolic:拡張期)と記載します。なお、単位のmmHgはミリメートルエイチジー、ミリメートル水銀柱と読みます。
HR:heart rate 心拍数。PR(pulse rate:脈拍数)と記載することもあります。心拍数と脈拍数は正確には別なものです。心拍数は1分間に何回心臓が拍動したかで、脈拍数は体表から触知出来る拍動の回数です。頻脈性心房細動の患者さんで、脈が速すぎて十分な心拍出量がない場合は、心臓は拍動しているけど体表からは触知出来ないため心拍数に対して脈拍数が小さくなることがあります。
RR:respiratory rate 呼吸回数。
LOC:Level of Consciousness 意識レベル。LOC JCS-1などのように記載します。なお同じ「LOC」でもLoss of Consciousness(意識消失)を意味することがあります。
UV:urine volume 尿量。
Hr:Harn ドイツ語で尿量の意味。「ハルン」と読みます。
afebrile:発熱がない状態のことです。

検査

L/D:laboratory data 採血などの検査データのこと。検査室で測定するデータなので、通常レントゲンなどの画像データは含みません。
CBC:complete blood count 全血球計算(略して血算)のこと。具体的には白血球数、赤血球数、ヘモグロビン値、血小板数などの血球に関する検査。ちなみにASTやALTなどの項目は生化学検査(biochemistry:BC)です。
WNL:within normal limits 正常範囲内。
Bx:biopsy 生検。
CXR:chest X-ray 胸部X線。

投与方法

po:per os 経口投与
iv:Intravenous injection 静脈投与。
→CIV:continuous intravenousinfusion 持続静注。IVCI (IV continuous infusion)と記載することもあります。
→DIV:drip intravenous injection 点滴静注。IVDI (IV drip infusion)と記載することもあります。
持続静注は主に24時間持続投与するもの(昇圧薬など)、DIVは数十分~数時間かけて投与するものを指します。これらに対してただivと記載するとワンショット静注、急速静注のことを指します。
ia:Intra-arterial injection 動脈内注射
→IACI:IA continuous infusion 持続動脈注射
ip:Intraperitoneal injection 腹腔内投与
sc:Subcutaneous injection 皮下注射。
id:Intradermic injection 皮内注射。
im:Intramuscular injection 筋肉内注射。
it:Intrathecal injection 髄膜腔投与。
CV:Centalvenous injection 中心静脈注射
これらの用語はivであれば大文字でIVやピリオドを打ってi.v.のように記載されることがあります。

アセスメント、その他

n.p.:nothing particular 特記すべきことなし。
f/u:follow up 経過観察。
ENT:Entlassen エントラッセンと読みます。ドイツ語で「退院」を意味します。ちなみにカルテ(Krankenakte)もドイツ語です。(ENTで耳鼻咽喉科を指すこともあります。「Ear(耳)」「Nose(鼻)」「Throat(喉)」の頭文字です。)
IC:Informed Consent 「医師と患者との十分な情報を得た上での合意」を意味する概念で、一般に病状説明をし、治療方針について患者、患者家族と同意することです。ICを行う、などと使います。
TPN:Total Parenteral Nutrition 中心静脈栄養。IVH (Intravenous Hyperalimentation)も同義ですが、国際的に用いられるTPNを用いるのが望ましいとされています。

口語頻出用語

アイテル:eiter、膿という意味です。創部や褥瘡(じょくそう)の評価項目です。
アナムネ:Anamnese、ドイツ語で「病歴」の意味。「アナムネを取ってきてください。」は患者さんから問診をして病歴を集めてください、という意味です。
アポる:英語で脳卒中を意味する「Apoplexy」に動詞の「る」をつけて「アポる」です。本来は脳卒中は「Stroke」であり、正しい用語ではないので自分ではあまり使わない方がいいでしょう。
オペレコ:Operation record、手術記録のことです。
カルチ:Carcinoma 上皮細胞由来の悪性腫瘍のこと。ちなみに非上皮細胞由来の悪性腫瘍は肉腫 (sarcoma)です。
クランケ:Kranke ドイツ語で「患者」の意味。
コンサバ:conservative、保守的の意味。医療用語として使う場合は外科手術ではなく保存的な(内科的な)加療を行うこと。
コート:Kot ドイツ語で「便」の意味。
ザール:Operationssaal、ドイツ語で「手術室」の意味。
ステる:ドイツ語で「死ぬ」を意味する「sterben」に動詞の「る」をつけて「ステる」です。患者さんが亡くなる(亡くなった)ことを意味します。
ゼク:Sektion、ドイツ語で「解剖」の意味。病理解剖のことを指します。
ディアベ:Diabetes Mellitus、糖尿病のこと。
デクビ:Decubitus 褥瘡のこと。「デク」と記載することもあります。
フォーレ:膀胱留置用カテーテルのこと。カテーテルをデザインした泌尿器科医のFrederic Foley (フェドリック・フォーリー)先生にちなんでつけられたフォーリーカテーテル (Foley catheter)から。
プシコ:Psychose (精神病)またはPsychiatry (精神科)のローマ字読み頭3文字です。患者さんに対して「プシコ」と言うのは精神疾患がある人だけでなく、精神疾患があるように見える人、神経質な方などを揶揄する意味があるため避けましょう。
ライン:血管への経路のことで、静脈路はVライン(Venous line)、動脈路はAライン(Arterial line)といいますが単にラインという場合は通常静脈路です。ルートも同義です。

専門用語や略語は使っても良い?

私が学生の頃は、同室者に病気を知られたくない人もいるから、がんのことは「カルチ」と言うように指導されました。胃がんなら「MK」です。今となってはこれは誤りだったと思います。

今はネットで調べれば用語の意味は簡単に調べられます。「カルチ」と言ったから意味が分からないなんて、配慮した気になっているだけです。患者さんに病気の説明をする際に、同室の人に話を聞かれないように別室に移動するのは当然の配慮であり、そもそも周囲の人に聞かれると困るような話を病室でしているのが問題なのです

医学用語には慣習的に用いられているものの、国際的には正式な用語ではないものも多く、同じ単語でも別な意味を持つ言葉も多いことから基本的には略語は使わないことが推奨されています。

しかし、医学用語には長い単語も多く、いちいち正式名称を記載するとかえって分かりにくいということも経験します。カンファレンスの資料やカルテ記載などでは、正式な医学用語、略語を使うことで理解しやすくなります。用語の意味や使い方、他の科の先生が分かる単語かどうかを理解し、適切に使うことを意識しましょう。

まとめ

お疲れさまでした。今回使用した用語は全体の一部ではありますが、頻出のものを中心にまとめました。病棟に出たばかりの頃は、専門用語が飛び交い困惑するかもしれませんが、必ず慣れます。

専門用語を知っていることは大事ですが、後輩や患者さんと話すときは平易で理解しやすいよう言葉を選んで説明するようにしましょう。

各科頻出の専門用語については別でまとめたいと思います。
特に循環器内科、ICU、外科などで専門用語や略語が多いと思うので、改めて記載したいと思います。

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