ドラマ版 ブラックジャック感想

日記

ドラマ版ブラックジャックを視聴しました。ブラックジャックは子供の頃に家にあった漫画を読んだきりで、大人になってから読み返したことはありませんでした。今回、ドラマ版ブラックジャックを視聴したので感想を書きたいと思います。終わり方について意見がある人が多いと思います。是非ご意見をください。

あらすじ

高額な治療費を要求するが、抜群に腕が立つ天才外科医「ブラックジャック」が、命の価値を問い掛ける。助かりたい、その気持ちにどれだけのものを差し出せるのか。

今回ドラマ化された範囲の患者は3人。
ドラッグを吸って運転し、事故を起こして多臓器損傷となった古川駿斗。
車の事故により鉄骨の下敷きとなった少年。
顔面が醜く変形する奇病「獅子面病」にかかった人妻、六実えみ子。
(裏の事情を追求しすぎて、首を切りつけられた板見弁護士も助けられていますが、ほぼ描写がないので除きました。)

このうち人間模様が特に詳細に描写されるのが3人目、六実えみ子です。獅子面病は顔の骨が飛び出て、醜く歪んでしまう奇病で、確立した治療方法はありません。ブラックジャックは過去に一例、獅子面病の患者の顔を元通りに治療したことがあります。ブラックジャックに依頼を持ってくるのはえみ子の夫、明夫であす。明夫はえみ子の「顔」が好きでした。「笑った顔が可愛くて、自慢の、私の宝物でした。」
ブラックジャックは明夫に問い掛けます。「——あなたにとって奥さんの顔ってのは、おいくらの価値があるのですか?」
時を同じくして、えみ子は安楽死を請け負う”死神”Drキリコに連絡を取っていました・・・。

命の値段

ブラックジャックは治療の対価を要求します。それぞれの患者の依頼までの経緯と、治療費をまとめました。

法務大臣の息子、古川駿斗

治療費:数億~10億円 (推察)

外傷により多臓器が損傷しており、健康な臓器を移植する以外に助ける方法がありません。依頼主は駿斗の父親であり、法務大臣です。治療費の詳細はありません。ただし、父親は典型的なお金持ちムーブをしており、背格好の似た人を捕まえ、移植用の臓器を用意させており、お金も組織力もある様子です。ブラックジャックは「あなたにとって、息子さんの命はおいくらですか?」と問い掛けています。作中では父親の返答は描写されないのですが、他の患者より治療の難度が高く、また口封じの分も必要でしょうから、他の患者の数倍、おそらく数億~10億ほどの報酬を貰ったのではないでしょうか。

事故にあった少年

治療費:1億円

風車を追いかけて道路に出たせいでトラック事故が起こり、鉄骨の下敷きになってしまいます。一刻を争う事態なのに、体を鉄骨から抜き出すことが出来ず、鉄骨を避けるクレーン車が到着するのを待つしかない状況です。たまたま通りかかったブラックジャックが少年を助けようとします。
ブラックジャックは1億払えば助けますよ、と問いかけます。母親は幾らでも払います、と答えますが、ブラックジャックは過失があるのはトラックの方だからと運転手に払う気があるか問います。当初は嫌がる運転手ですが、子供が死んだとなれば運転手自身だけでなく家族、会社も人殺しだと後ろ指をさされることになると脅しをかけ、結局運転手が会社とかけあって1億円を払うことにします。
子供を助けるためお金を払うと即答する母親と、ブラックジャックに脅されてしぶしぶお金を払う運転手が対照的ですね。

獅子面病の妻、六実えみ子

治療費:2億円

獅子面病に罹患し、顔が醜く変形していきます。普段は顔を隠すため、馬の面を被っています。部屋には夫の明夫と一緒に撮った写真が沢山飾ってあり、仲が良かったことが伺えます。明夫はえみ子のために獅子面病の治療が出来る病院を探し回っていますが、根治は難しく、進行を遅らせる内服治療を提案されるばかりです。そんな折、どんな病気でも治せるというブラックジャックの話を聞き、明夫が治療の依頼に行きます。明夫はえみ子の笑顔が宝物で、それを取り戻したいと伝えます。ブラックジャックは治療には2億かかるといいます。結局、明夫・えみ子は高額な治療費をふんだくるのが目的だと判断し、席を立ってしまいます。

感想 (ネタばれ有)

六実えみ子の絶望

六実えみ子は2つの絶望を抱えています。1つは好きな人(明夫)に心から愛してもらえないという絶望です。もう1つは強くなれない自分自身への絶望です。
ブラックジャックにあしらわれ、帰宅した後、明夫がえみ子にキスをしようとして止めるシーンがあります。これは本当にひどいと思いましたが、でも実際に見た目に嫌悪感を抱いている人に心から愛情を表現することが出来るでしょうか?仮に演技をしたとしても、親しい仲であればあるほど、相手の細かい仕草や声音で、本当はどう思っているのか察してしまうのではないでしょうか。作中では明夫はえみ子のためにいろいろな病院を探しており、そしてえみ子にキスをしたり、抱くことができない自分を情けないと嘆いています。客観的にみると明夫はえみ子のために出来る限りのことをしているように思います。それでもえみ子にとってはダメなんです。だってえみ子は病院を探して欲しいわけでも、反省して欲しいわけでもなく、自分を心から愛して欲しいのですから。キリコは夫婦で話し合えば解決する問題、と言いましたが、明夫もえみ子も十分悩んで、苦しんだ後なのだと感じました。
2つ目の絶望は強くなれない自分への絶望です。キリコに話し合えば解決する問題だと言われた後、えみ子はもう一つの絶望を吐き出します。「人は見かけじゃない、心だ。同じ病気でも強く生きている人だっている。そんなの分かってる、分かってるけど私には出来ない。」この慟哭が痛々しくて、悲しくて、みていられませんでした。
同じ境遇でも頑張っている人はいる、立派な人がいる、というのは励ましのように見えて励ましではありません。同じ境遇でも頑張ってしまう人がいるから、次にその境遇になった人も同じくらい頑張らないといけない。頑張れないと、その人より劣っているということになる。でも病気のつらさは人それぞれ、家庭環境や経済状況、そして何を大事にしているかの価値観もそれぞれです。「もっとつらいけど頑張っている人もいるよ」は励ましどころか呪いの言葉です。職場の上司が相手なら「仕事して欲しいっていうあんたの都合だろ」と心の中で言い返すことも出来るかもしれません。でも、それを友達や家族などの近しい人に言われたらどうでしょうか。きっとひどく傷つき、頑張れないのは自分が悪いんだと感じてしまうかもしれません。

妻のつわりの時に似たことを思いました。つわりの重さは幅があります。軽く済んだ人や、重いけどすごく頑張った人、そういった人が直近で職場にいると仕事を休みにくくなります。「〇〇さんは仕事普通にしてたけどね」なんて言われます。妻は毎日吐いて、体重が減っていくのに仕事を休めず残業や日直当直にも入っていました。結局なんとか上司の方と相談し、休みを取らせていただけることになりましたが・・・。期間限定のつわりと治療が必要な病気を一緒にするなよという意見はあるかもしれません。そうであれば申し訳ありません。体と心のつらさは人それぞれです。人ぞれぞれなのに、値として見せることが出来ません。結局似た境遇の人の、しかもその中でも頑張って、立派な人を基準に判断されてしまうのです。

キリコの罪

えみ子はブラックジャックにより元の顔を取り戻します。しかし、夫婦でドライブ中に崩落に巻き込まれ、命を落としてしまいます。そのニュースを見てキリコは「せっかく治したのに、ばかみたい私達。あんなにじたばたして。なんだったのあれ。あの人達はどうやったってこうなる運命だったのよ。」と言い放ちます。これはどうしても許せません。
えみ子が安楽死を望んでいたのは獅子面病を根治する方法がなく、病気を抱えたまま生きていくことが出来なかったからです。獅子面病が治ってからは死を望んではいませんでした。夫婦で幸せになれるそのスタートラインに立ったところだったのです。そしてその幸せな未来を不運にもまた奪われてしまいました。
キリコはブラックジャック以上に六実夫妻の事情に詳しかったはずです。獅子面病が治ったのであれば、「これで安楽死はもう必要ありませんね。」と言って一緒に喜ぶべき立場であるはずです。事故に遭ったからとブラックジャックを嗤うということは、えみ子のことを思って安楽死を提示していたのではなく、ただえみ子に死んで欲しかった、すなわちキリコは医者ではなくただの殺人者であった、ということです。
原作あってのドラマですし、キリコが作中のヒール役としてキャラ立ちするためには必要な展開だとは思うのですが、それにしても許せない展開だと思いました。

ブラックジャックが得たもの

今作の中で、ブラックジャックが得たものをまとめます。

古川駿斗:治療の報酬(推定 数億~10億円程)
六実えみ子:実質無報酬。(明夫の死後に、臓器を貰う約束をする)
事故にあった少年:「ありがとう」と書かれた風車。(トラックの運転手は、少年が飛び出てきたことによる事故で過失がないためと、1億払う約束を反故にします。)

ドラマ中では悪役からはお金を貰い、その他の人は実質無報酬で助けていますね。
お金を取るのも、次の人を助けるための資金と考えると、必要な経費のようだと思います。
治療費の額についても、アメリカで心臓移植を受けると費用は3~5億円かかることを考えると、安いくらいなのかもしれません。

まとめ

非常に面白かったです。高橋一生のブラックジャックがとにかくかっこよかったですね。キリコについては原作からして立ち位置の難しいキャラなのですが、作中の言動は人として許されるものではないなと思いました。

ドラマ中では結局えみ子は治療によって元の顔を取り戻すことが出来ます。でも現実世界にはブラックジャックはいません。そうなったとき、病気で苦しんでいる人が何を思っているか、そして周囲の人はどんな言葉をかけてあげるべきかを視聴者に考えさせるドラマだったのかなと思います。

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