『きみは赤ちゃん』感想

妊娠・育児日記

妻が読んでいたのですが、お勧めされて読みました。
この本は妊娠・出産には人それぞれの考え方があり、悩みがあり、困難があり、正解はないということを伝え、妊婦さんを励ますためのものなのだと思います。そして、それと同時にもう一つの大きなメッセージとして、夫側に「女性はこんなに大変な思いをしているのだから、危機感を持て」というものがあると感じました。
作中で川上さんは夫に様々不満を伝えるのですが、自分が言われたらいやだなと思う内容でも、本の中で登場人物が言われているのを読む形であれば冷静に内容を受け取ることが出来ました。川上さんと会ったこともなく、また自分ではなく夫への不満を聞いている傍観者の立場だからこそ冷静でいられたのだと思います。妊娠をきっかけに妻との喧嘩が増えた、どうしてこんなに妻がいらいらしているのか分からない、こういうことを感じる人に是非お勧めしたいです
それでは内容を紹介していきましょう。

本の紹介

作者である川上さんのノンフィクション妊娠体験記です。この本で特に面白いと思うのが、妊娠しようと思い立ち、妊娠チャレンジ(妊活)するところから話が始まることと、妊娠・出産の全てを肯定するのではなく、マイナスの点も正確に描写していることです。
妊婦さん向けの本は妊娠後から始まる本が多いと思いますが、この本は妊娠チャレンジするところ始まります。作者の川上さんが妊娠したのは35歳の時とのことですが、グーグルで「高齢出産」と調べると明確な定義はないが35歳以上、と書いてあり、つまり一応高齢出産に分類されるようです。妊娠についてはスムーズにはいかず、タイミング法、基礎体温測定法から始まり、なかなか妊娠出来ないための妊娠検査キットの大量消費などの描写が続きます。妊娠する前にも沢山の思いがあって、努力があって、その結果として妊娠すると思うのですが、その部分を詳細に描写している本は少なく、参考になりました。
妊娠のマイナスの点についてですが、現実で目にするネット情報やSNSでは、キラキラした様子を見せる人か、不安・不満をひたすら発信する人の極端な2択しかなく、どちらもあまり現実に即してはいないように感じます。嬉しいことと悲しいこと、幸福と不幸が、この本では現実的な比率でミックスされており、それがこの本のリアリティを高め、文章に説得力を持たせていると思います。妊活中、妊娠中、そして出産してからは、いいことばかりは無いですし、逆に悪いことだけでもないはずです。過剰に良く見せる、悪く見せることのない川上さんの経験談を通じて、子供を迎えることへの覚悟が出来たように思います。

「危機感を持てよ!」という強いメッセージ

夫は同じ作家の阿部和重さんだそうです。作中では『あべちゃん』と呼ばれています。あべちゃんは作中で未映子さんに至らない点を様々指摘されます。褒められる場面もあるのですが、叱責と賞賛の比率でいうと7:3くらいで、会ったこともないあべちゃんに同情してしまうくらいです。何がびっくりかというと、作中では叱られまくっているあべちゃんですが、私の視点では(そしておそらく世の中の多くの男性にとって)育児にとても協力的で家事スキルの高い夫に見えるのです。
作中の描写では、あべちゃんは食事(離乳食やミルク作り)の準備はしませんが、それ以外の家事はほぼ全てこなします。子供の病院受診や予防接種にも積極的で、ここまで育児出来る男ってあんまりいないのではないでしょうか・・・と思ってしまいます。でも未映子さんにとっては足りないのです。
別に未映子さんがわがままだ、と言いたいわけではありません。未映子さんは自分の経験を通じて、「女性はもっと声をあげていいんだ」「家事・育児を分担することの本当の意味」を伝えたかったのだと思います。私も含めて男は、特に家事・育児はやったつもり、出来ているつもりになっていることが多いのではないでしょうか。そして性別の都合でお腹を痛める、母乳をあげることがないので、その時点で既に不公平であることを認識するべきだと感じました。

出産における負担の性差

妊娠・出産は本当に大変です。つわりの吐き気、体の変化、なにより「出産に関係するトラブルは母親のせいである」という精神的なプレッシャーに母親は耐えています。出産時の痛み、出血への不安もあるでしょう。夫婦2人で妊娠期間を過ごしていく、と言葉で言っても妊娠から出産に関して男はほとんど何も、全くといっていいほど負担がないことに気づきます。
私自身、つわりがきつい間家事は全部やったからな・・・なんて考えていましたが、では「家事を全部やる」のと「つわりに耐える」のどっちがいいですか?と聞かれたら間違いなく家事全部やる方がいいでしょう。妻のつわりがきつい間は食べ物に配慮した、というのも「匂いがきついものを食べないよう注意する」のと「気持ち悪くて、匂いが合うものしか食べられない」ではどっちの負担が大きいでしょうか?比べるまでもないですよね。
こうして考えてみると、夫側が配慮したと思っていることって、100点満点やったとしてそれでも女性側の負担には全然及んでいないですよね。これは産後も同じでしょう。一例ですが、女性は乳首を吸われて皮膚が剥げて痛いのに、それでも赤ちゃんに母乳をあげないといけないから痛みに耐えて母乳をあげています(これは本を読むまで全く知りませんでした)。
この本ではそういう男女の不平等を沢山目にします。作中で描写されているのは一部で、もっとたくさんの不平等があり、そのそれぞれ1つ1つに付随して不満があったのだと思います。その不平等が未映子さんの遠慮のない言葉で語られるので、自分のことを直接責めているわけではないのに、ドキッとしてしまいます。
この本はきっと、妊娠・育児に関する不平等を言うことを諦めている女性への応援歌であり、「あなたの奥さんは言葉に出さないかもしれないけど、不満に思っているよ」と男性に伝える警告なのだと思います。

妊娠に関する同調圧力

この本では同調圧力についても言及があります。例えば、出産時は痛みを経験しないとだめだよねという圧力、妊娠に関係することは楽しい話題にしないといけないよねという圧力。これは本当に不思議だと思うのですが、出産時に痛みを経験することを神聖視する風潮があります。これは出産に限った話ではないかもしれません。年配の方が「俺の若い頃はもっと大変だった」というのと似た話でしょうか。苦労した人ほど、他の人が同じ思いをしないようにしたいと感じるべきだと思うのですが、世の中は逆のこともしばしば経験します。「私はこうだったからあなたもこうあるべき」の理論で誰かが幸せになることはあるのでしょうか。相手のことを本当に想ったアドバイスは、もっと違う内容になると思います。

男の子への不安

作子供が男の子だと分かった時に、未映子さんが戸惑う場面があります。異性のこどもへの接し方で悩む、のではなく子供が将来性犯罪者にならないかを心配するのです。やや過剰かなと感じるのですが、でも気持ちが分からないでもないなと感じます。女性による性犯罪も無くはないですが、割合としては圧倒的に男性によるものが多いでしょう。性に関することって表現しにくくて、話題にもしにくい内容かと思います。そういう話題を、批判されるかもしれないリスクを背負って、文章として世の中に発信できるというのはとても勇気のあることだと思います。

妊娠公表のタイミングの難しさ

未映子さんは離婚歴があるようで、前の旦那や、周囲の人に迷惑をかけないように妊娠初期にあえてインタビューを受けたと書いていました。未映子さんの状況はやや特殊だと思いますが、多くの人はいつ妊娠したことを公表するかで悩んだのではないでしょうか。
妊娠中にいつ職場のサポートが必要かというと一番が産休・育休期間中なのは間違いないですが、その次はつわりのひどい時期ではないでしょうか。つわりは一般的には5~6週ころから始まります。ここからしばらくの間、吐き気がひどく、人によっては体重ががんがん減って、とても働ける状態ではなくなります。でも妊娠5~6週はいわゆる安定期とされる16週よりずっと前なんです。つまり、周囲の人のサポートを受けるためには、安定期より前の流産リスクが高い時期に妊娠したことを言わないといけません
未映子さんも書いていましたが、妊娠したことを公表した以上、流産した場合にはそのことも公表することになるでしょう。そして流産した時に言われる心無い言葉を考えると、想像しただけで苦しくなります。
5~6週というのは見た目には妊娠していることが全く分からない時期です。お腹がある程度大きいと、自然と配慮してくれるでしょうが、お腹が大きくない時期だとつわりの大変さがうまく想像できなかったり、奥さんがたまたまつわりが軽い人だったりすると、つらさを理解してもらえず、休みを貰えなかったり、ひどいことを言われたりすることもあるようです。
私達も職場にいつ妊娠のことを伝えるかすごく悩みました。結果としてつわりがあまりにきつかったので、安定期に入る前に職場に伝えて、日直・当直の免除など相談することにしました。私達の職場は様々配慮してくださり、本当に感謝しています。たまひろの投稿を見ると、つらい思いをしている人は沢山いるみたいです。つわりは本当にきついです。人によるというのは間違いないですが、軽かった人を基準に、あるいは男の人側がつわりのきつさを見積もって休みを決めるのは止めて欲しいなと思います。

まとめ

総括としては、妊娠しようと思った時、あるいは妊娠初期に夫婦で読む本、でしょうか。これから待ち受ける喜びと困難のイメージがつくと思います。私も含め、男性のみなさん、頑張りましょう。妊娠・出産は本当に大変です。気を遣っているつもりでも全然足りないのでしょう。女性が何に怒っているのか分からない時、この本が参考になるかもしれません。

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