今回は講義内容について紹介するので、参考にしてください。実地研修はどんなことをしたのか紹介します。
産業医講習で良かったなと思うのは、法律やルールの話だけでなく、実際に産業医として働く際の注意点やコツを聞くことが出来たことだと思います。単位を集めて産業医を取る場合には、産業医としての働き方や、どんな相談が多いのかについての講義に枠を取るのは難しいのではないでしょうか。
集中講座 スケジュール
産業医を取るには計50単位(=約50時間)の講義を受ける必要があります。月曜日から金曜日+土曜日午前の計5.5日で50単位を集めきるので、日程はなかなかハードです。
実際のスケジュールですが朝9時スタート、40分の昼休みを挟んで終わりは18:40~19:40(講義数によって違う)です。初日のみ9時ではなく10:20開始です。移動時間を考慮してだと思います。また講座の3日目or4日目は実地研修となっています。参加者のうち半数は3日目、残りは4日目に実習です。私は3日目に実地研修のグループでした。
実際のスケジュールです。
月:10:20-10:30 オリエンテーション。講義8単位、10:30開始、19:10終了。
火:講義9単位、9:00開始、18:40終了。
水:実地研修10単位、9:00開始、19:40終了。
木:講義10単位、9:00開始、19:40終了。
金:講義9単位、9:00開始、18:40終了。
土:講義4単位、9:00開始、13:00終了。
月曜日の開始時間が遅いこと、土曜日は13時に終わります。移動手段を確保する際は注意してください。
実地研修の内容
2024年の実地研修の内容は①職場巡視②メンタルヘルス③THP④保護具⑤作業環境測定、の5つでした。実地研修と言っても、場所を変えることはなく、北九州国際会議場内で動画を見る、騒音測定や二酸化炭素濃度測定をするなどの少し実技が混じる研修といった形でした。
①職場巡視
産業医は職場巡視を毎月最低1回行う必要があります。研修では職場巡視つもりで工場の動画を見て、改善点をグループ毎に話し合いました。実際の研修の様子はお伝えできないので、代わりに産業医になったつもりで研究室の巡視をしてみました。
正直気になった点ばかりだったのですが、「悪い点ばかりでなく、良い点も同じ数褒めるように」との指導がありましたので、褒める点も見つけました。
研究室は有機溶剤、毒物、劇物を多種扱っているのですが、これらの薬品は鍵付きの戸棚にしまわれ、棚には危険物を示すステッカーが貼ってあります。このように薬品がしっかり管理されており、危険物が収納してあることが一目で分かるようになっているのは良い点だと思いました。
改善点としては薬品以外のシリンジや注射針などが棚に積まれており、どこに何がしまわれているか分かりにくい状態でした。また、地震対策も一部不十分なところがありました。
このように職場巡視したつもりになって、良い点、改善点を指摘しました。普段から通っているとすぐに見慣れてしまい、それが当然だと思ってしまうのですが、改めて見直してみると気になる点が沢山ありますね。第三者の視点を取り入れるという意味でも、産業医が職場巡視する意義はあると思いました。
②メンタルヘルス
ケーススタディを行いました。モデルの方は30代後半の男性で、電子機器メーカー勤務です。他部署の管理職との関係や、過重労働を原因として休職をしているという設定で、復職に向けた面接の練習をしました。産業医の業務として、メンタルヘルス、復職の対応が特に気を遣う仕事であるというのは聞いていましたが、実際のやり取りを見ると確かに大変だと思いました。
③THP (トータル・ヘルスプロモーション・プラン)
職場の健康作りの1つとして運動処方について勉強しました。実際に運動もしてみて、運動能力評価、運動強度の体感や、ロコモ度(ロコモティブシンドローム)の評価を行いました。
運動能力評価として簡単に出来るものとして閉眼片足立ちがあります。膝を軽くまげて立ち、はじめの合図で目を閉じ、一方の足を静かに上げます。足を絡ませたり、軸足をずらすことなく姿勢を維持し、その持続時間を測定します。
何秒出来るかですが、私は47秒でした。意外と難しいです・・・!食べ過ぎに注意すれば肥満は防げるかもしれませんが、筋力を維持し、寝たきりを避けるためには運動が必須だと改めて分かりました。
④保護具
ガスや粉じんに暴露される環境での作業を行う場合の保護具について学びました。医療従事者は普段サージカルマスクを着けて仕事をしていると思います。それ以上となると、コロナの患者さんに対応するときにN95マスクをつけることがあるくらいでしょうか。N95マスクは『固形粒子を95%除去する性能を有する』という意味で、防塵マスクに分類されるとのこと。ちなみに粒子の種類には固体と液体があり、液体(オイルミスト)の方がマスクの通過性が高く、対策が難しいようです。
防塵・防毒マスクはこんな感じのです。
ちなみにこれでも環境中の粉塵や毒物が高濃度の場合は防御が難しく、また低酸素環境にも対応できません。
最も確実なのは送気マスクです。送気マスクはスキューバダイビングみたいに、呼吸に使う空気を送ってもらうので、環境中の空気は一切吸わないので安全性が高いです。
実際にマスクを着けましたが、ゾンビ映画やパンデミック映画みたいで楽しかったです。
⑤作業環境測定
職場の騒音測定、各種ガス濃度測定(酸素、二酸化炭素、有機溶剤など)の測定方法について学びました。実際に二酸化炭素の濃度を測りました。
講義室の二酸化炭素濃度を測定したものになります。
褐色の薬品が二酸化炭素に暴露されると黄色く変色します。見えにくいと思いますが、検査管の上1/4程度が黄色く変色しています。
講義室の二酸化炭素濃度は900ppm(=0.09%)という結果でした。空気中の二酸化炭素濃度は通常410ppmとされており、1000ppmを超える場合には換気不足の指標となるようです。
(ちなみに人の呼気中の二酸化炭素濃度は安静時10000ppm、運動時は90000ppmまで上昇するそうです。)
騒音測定器も用いて騒音評価もしました。騒音はデジベル(dB)で評価します。デジベルはマグニチュードと似ており、デジベルが3上がると音の大きさは2倍、10上がると10倍になります。85dBが騒音評価の一つの基準ですが、85dBというのはかなりうるさいです。声が大きい人と至近距離で会話している時が85~90dBくらいです。音は距離の2乗に反比例して減衰する(距離が2倍だと音は1/4になる)ので、騒音対策はとにかく距離を取ることが大事です。うるさい人とも距離を取るのが大事ですね。
講義の楽しさ・大変さ
50単位を5日半に詰め込んだ影響もあり、最終日を除いて終わる時間は19時前後と遅い時間でした。しかし、普段の診療業務に比べると、話を聞いているだけなので肉体的疲労はそれほど感じませんでした。強いて言えば椅子が柔らかく、腰が痛くなるのが困りごとでした。初期は九州に来ているという”旅感”と、講義を聞くのが学生の時以来で久しぶりの感覚がかえって新鮮で楽しかったです。後半は環境にも慣れ、長い講義を聞くのにも飽きてくるので、ちょっとつらかったです。実地研修は体を動かせることもあり、リフレッシュできました。
講義内容は楽しいものから、やや退屈なものもあったのですが、ストレス評価やメンタルヘルス、超過勤務のルールや産休・育休の扱いについては私が関心がある部分でもあり、興味深く聞くことが出来ました。メンタルヘルスはかつては自分には関係のない話で、気を病む人は弱い人だと思っていました。しかし、今は仕事を断れず、自分のことより仕事を優先しがちな人ほどメンタルを病みやすいように感じています。理不尽な業務や、超長期の勤務をすれば誰だって心を病みます。そして世の中は嫌なことでも頑張る人ほど、嫌なことが集まってくるように出来ています。産業医を取ろうとしてる方は、もしかすると日々の業務や、人間関係に疲れて産業医を取ろうと思ったのかもしれません。私は少なからずそういう部分があります。産業医の講習は、産業医として働くための知識を学ぶだけでなく、ストレスの理由や対処方法について自己分析を行う機会でもありました。
ブラック産業医になるな
講義の中で、何度か「ブラック産業医になるな」というメッセージがありました。ブラック産業医とは、産業医に熱心になりすぎて働きすぎる人・・・ではなく企業側の都合の良いように働く(=他の労働者にとってブラックな働き方をする)産業医のことです。
一例として、かかりつけ医の診断書の内容を無視して復職させず、休職期間満了として退職させるという事件があったようです。例として出していた事件については、休職者と産業医の間で面談はほとんどなく、また診断された覚えのない診断名(うつ、など)をつけられ、「復職不可」とされたようです。
産業医は中立の立場であるべきです。まだ産業医として働いたことのない私が言うのも説得力がないかもしれませんが・・・。産業医はその会社に雇われているわけで、あまりに労働者の肩を持ちすぎると、解雇されることもあります(実際、嘱託の場合は、解雇されるのは良くあることのようです)。産業医と会社人事は雇用-被雇用の関係にあるので、パワーバランスがあるわけですね。ある程度は会社の意向を汲む必要もあるでしょう。それでもあくまで中立に、労働環境を整えて、出来るだけ多くの人が心身ともに健やかに働けるように頑張るのが産業医の仕事だと思います。
まとめ
産業医講習 集中講座のスケジュールをまとめました。講義時間の長さだけを見ると大変に感じてしまいますが、割と楽しく講義を受けることが出来ました。次回は真面目な話は一休みして、小倉駅周辺の食事についてレポートしたいと思います。
第1回:申し込み方法
第2回:この記事
第3回:博多・小倉の食事処
第4回:参加者の出身地・年齢分布と観光地紹介
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